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Melodian Cat

同人サークル「MelodianCat」の活動日誌です♪
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「ただいま取材中!(仮)」 

今回もボクのオリジナル小説の一部を掲載します。
LORD of VERMILIONのほうは一時お休みで、また次回にでも第二話を掲載しますね。

今回は”学園物”です^^


舞台はとある私立の高校。
私立清涼院学園高校新聞部が活躍するお話しです。

今回はプロローグ的な部分までしか掲載できませんでしたが、一応全編書き終わってはいるので、今後の展開もお楽しみに。
話しに入る前に登場人物の一覧を載せておきますので、さらっと読んでいただけるといいかなと思います。


ところで、”学園物”といって思い出すのは、松ヶ枝蔵人さんの「セントエルザクルセイダーズ」ですね。
だいぶ昔の本ですが、今でも細部を思い出せるほど好きな作品です。
今回のボクの作品には、特に影響を受けた部分というものはないのですが、それでもボクの中での”学園物”の頂点はこの作品かもしれません。

まぁそれくらい気に入ってる作品ということです。


さて、今回の作品「ただいま取材中!(仮)」は一人称で書いています。
三人称で書くのか、一人称で書くのか、物語を書くうえでは結構重要な問題ですよね。
作品の雰囲気がそれで大きく変わったりもしますし。
一人称で書くメリットも多くありますが、一人称であるが故の制約というものもあります。
この辺はまだまだ勉強不足で、この作品も実は最初三人称で書いていて、のちに一人称に変更してたりします。
読んでいただいて、この部分でのご意見もいただけたらな、などと思っています。

コミティアが終了して、少し余裕が出たら、ぜひ麺さんに挿絵を入れてもらいたいと思ってますが、それは僕自身が一番楽しみにしています^^

麺さんよろしくお願いしますねw



ではでは、「ただいま取材中!(仮)」の始まりです♪







【主な登場人物】

《新聞部メンバー》
遠藤卓巳(えんどう・たくみ)-私立清涼院学園新聞部部長。同高校二年生。物語の主人公。
箱崎珠江(はこざき・たまえ)-私立清涼院学園新聞部副部長。同高校二年生。通称タマ。
白石照正(しらいし・てるまさ)-私立清涼院学園新聞部部員。同高校二年生。
駒井健太(こまい・けんた)-私立清涼院学園新聞部部員。同高校一年生。

《生徒会メンバー》
高宮早苗(たかみや・さなえ)-私立清涼院学園生徒会会長。同高校三年生
寺島修司(てらしま・しゅうじ)-私立清涼院学園生徒会副会長。同高校三年生
蓬莱みこと(ほうらい・みこと)-私立清涼院学園生徒会副会長。同高校二年生
後隼人(うしろ・はやと)-私立清涼院学園生徒会会計。同高校二年生。
土御門美穂(つちみかど・みほ)-私立清涼院学園生徒会書記。同高校一年生。

《部活動連合メンバー》
佐々木霧子(ささき・きりこ)-私立清涼院学園女子空手部主将。公安委員会委員長。同高校二年生。
実剣大地(みつるぎ・だいち)-私立清涼院学園男子剣道部主将。同高校二年生。
高柳幸助(たかやなぎ・こうすけ)-私立清涼院学園文芸部主将。同高校二年生。

《その他》
要曜子(かなめ・ようこ)-私立清涼院学園三年生。学園創立以来の秀才。
桐生京介(きりゅう・きょうすけ)-私立清涼院学園居合道同好会主将。同高校二年生。



「ただいま取材中!(仮)」

第一話 スクープ!

 ひたすらに暑い。
 六月が終わりに近づき、もう一月もすれば夏休みという時期。
 俺は放課後になるといつものように部室を訪れ、これまたいつものように定位置に座っていた。部室にはクーラーなどという高度な文明の利器は存在せず、開け放った窓からは嫌味のように湿度の高い熱風が吹き寄せてくる。
 俺はしばらく下敷きで自分に風を送りつけ、なんとか暑さに対抗しようと試みたが、結局それは徒労に終わる事がわかってきたので、いい加減疲れてきた手をとめ、部室の中をちらりと見回した。
 それほど広くはない部屋の中央には、机が四つ向かい合わせにくっつけられており、もう一つ、一番奥には今まさに俺が座っている机があるだけだ。
 それぞれの机の上には雑多な資料が山積みになっており、かく言う俺の机にも、両端は紙切れの山が築かれているのだが。中央の四つの机のうち、俺の席に一番近い場所には、眼鏡をかけた女子生徒が猫背の姿勢でカリカリとペンを動かしている姿が見えた。
 そんなに目を近づけたらもっと目を悪くするような気がするが、あえて俺が指摘することでもないような気がしたので黙っておく。
 その代わりに今月の予定を確認することにした。
「タマ。」
 俺の声を聞き、箱崎珠江は顔をあげた。
「・・・。」
 くいと眼鏡を直す仕草をしたタマは、無言で俺のほうを睨みつけた。いや、別段睨みつけたわけではなく、タマは普段からそういう目つきなのだ。ショートにした色素の薄いさらさらとした髪。整った顔立ちに細身の眼鏡が似合う。ただ、視力が悪いせいか、どうも人を見るときには睨みつけるような目つきになる。
 無口なところを見るに、タマは今集中モードのようだな。普段は軽快な頭の回転の切れるところを見せるタマだが、記事を書いているときのタマはとにかく無口だ。
 集中モードのタマに話しかけるのはやや気後れするものだが、そう言ってもいられまい。
「あ~、なんだ・・・。今月の進み具合はどうだ?」
 タマの視線に押されつつ、なんとか必要な言葉を吐き出すと、タマは無言で自分の後ろにかかっているホワイトボードを指差した。『七月号進捗表』と書かれたホワイトボードには、ページごとの進み具合がチェックされている。順調にチェックが入っている表を上から眺めていくが、「特集」と書かれた箇所が唯一真っ白だった。
「おい、来月号の特集はこの前の編集会議で決まったはずだろう。照正は何やっているんだ。」
 来月号の特集記事を担当するはずの部員の名前を呼びながら部室をあらためて見回すが、タマの前の席は空席だ。
「取材。」
 タマが必要最低限の情報を伝えてくれた。
「この時期に取材って、締め切りに間に合うんだろうな。」
 来月の特集は、夏休み直前企画として、近隣の穴場遊びスポットを取り上げることになっている。俺としてはもう少し高尚な特集にしたかったが、全校生徒が夏休みを目前にして浮かれているこの時期には、それ相応の記事を組んだほうが受けがいいというのにも一応納得はしている。
「だいたい取材とかいって、ただ遊び歩いているだけじゃないのか。」
 照正のいかにものんきそうな顔を思い浮かべると頭痛がしてくる。
 タマは、話しは終わったとばかりに視線を机に戻し、ペンを動かす作業に戻っている。そろそろ記事の締め切りも迫っていることだし、俺も自分の作業を進めるとするか。
 手元のペットボトルのキャップをはずし、生ぬるくなったお茶をごくりと一口飲み干したとき、
 バタン!
という激しい騒音とともに、小柄な人物のシルエットが部室に飛び込んできた。
「部長!スクープです!スクープ!」
 慌しく部室に飛び込んできたのは部員の一人、駒井健太だった。
「なんだ、健太。今度はどこの犬が五つ子を産んだんだ?それとも今度は犬じゃなく狸か?」
 今年清涼院学園に入学してきた健太が部活に打ち込む姿勢は、ともすると部長の俺より熱心なくらいだが、どこをどうやって間違えるのか、その情熱が実を結ぶことはごくごく稀だ。いや、結んだことなどあっただろうか。
 先月、同じようにスクープだと騒いだ内容は、学園の裏に住んでいる山崎さん家の飼い犬が五つ子を産んだというものだった。それはそれで大変おめでたいことではあるが、我が学園に関係あることかといえば、これっぽっちも関係はない。
 この伝統ある私立清涼院学園高校新聞部は、常に学園生徒が必要とする貴重なニュースを提供し続け、その学園生活を平穏に、そしてちょっぴり華やかに過ごす糧となることを信条に掲げているのだ。部長としてこの新聞部を預かる身としては、先輩達に恥ずかしくない記事を提供し続ける義務があるというものだ。
「い、いえ・・・。こ、今度はスクープ中のスクープですよ!」
 肩で息をつきながら健太は主張するが、こいつの言うスクープほど信頼のおけないものない。だが、ここは心広い所を見せておくのが部長たるものだろう。
 もっとも狸ではなくて狐です、などと言おうものなら、即座に窓から放り投げるけどな。
「で?五つ子じゃなくて六つ子か?」
「そ、それが、来月頭に生徒会選挙の公示があるらしいんです!」
 一瞬健太の言った言葉が聞き慣れない呪文のように感じられた。
「生徒会選挙?」
 思わずそのままその単語をおうむ返しに口にしてしまうが、視界の隅に捉えたタマも、健太のほうを見上げてクエスチョンマークを頭に浮かべている。
 それもそのはず。本来生徒会選挙などというものは、年に一回、それも二月に行われる行事だ。その時期になれば、うちの新聞も選挙特集を組み、各候補者のプロフィールや選挙公約、インタビューなどを掲載する一大イベントといってもいいだろう。
 こんな中途半端な時期に生徒会選挙などが行われるはずがない。
「どういうことだ?現生徒会は特別目立った活動をしているわけじゃないが、かと言って生徒達から突き上げをくうようなこともないだろう。」
 考えられるのは生徒の誰かがリコールを唱えた場合だが、実際に生徒会を解散させるためには全生徒のうち三分の二以上の署名を集めなければならない。もちろんそんな動きがあれば俺の耳に入らないわけがない。
「そうなんですが・・・。でも確かな情報です!」
 俺の耳に入らない情報で、しかし、確かな情報。
 それを聞いた途端、先ほど出かかっていた頭痛が本当におきそうだった。
なぜなら、
「おい・・・。もしかしてそのスクープのソースは」
「あ、はい。要先輩です。」
という健太の口から出た名前を聞いたからだ。
「詳しいことは部長に直接話すからと、要先輩が。」
 要曜子。現在三年のそいつは、入学当初から今まで常に成績トップを維持する我が学園きっての秀才だ。頭がいいだけじゃなく、見た目もいいとあって、男子ばかりか女子からの人気も圧倒的な要は、
「やはりか・・・。」
俺が唯一苦手とする相手だった。
 どこから仕入れるのか、時折特大スクープを新聞部にもたらしてくれる人物であるが、とにかく俺は要が苦手なのだ。
 なぜだかわからないが、その特大スクープを提供してくれるときは、必ず部長たる俺に直接情報を伝えることを信条としているようで、他の部員を行かせてもその情報の詳細を話すことはない。
「要が言うことなら信憑性は高いが・・・。」
 あいつの前にまた行かなきゃいかんのかと思うと軽く目まいがする。頭を抱える俺の前に、いつの間にかタマが立っていた。
「行きましょう、部長。」
 すっかり取材モードに代わったタマが、ノート片手に俺を見下ろしていた。その視線は俺に有無を言わさない圧力がこめられていた。
「わかった・・・。健太もレコーダーを持ってついてこい。」
 ようやく決心し立ち上がると、タマと健太を引き連れて部室を出た。


「で?要はいつものところか?」
 部室を出て行き先を健太に問う。
「はい!いつものように東棟の屋上です。」
 清涼院学園の建物は『中央棟』と呼ばれるその名のとおり敷地の中央に建つ建造物を中心に、東西南北に向けて放射状に渡り廊下が巡らされ、四方に中央棟よりは二回りほど小さな建物が配置されている。我が新聞部が位置するのは『南棟』の三階。『南棟』は部活動の部室が集まる棟で、健太の言う『東棟』は主に三学年の教室が集まった建物になる。
「あいつが屋上にいるのはいつものことだが、このクソ暑い日によくそんな場所に陣取る気がおきるもんだ。」
 俺がため息と共に、恐らく暑さなど何も感じていないような表情を浮かべているであろう要の姿を思い浮かべていると、隣で俺の歩調にあわせて廊下を進むタマが、俺を横目に睨みながら薄い唇の端っこを持ち上げた。
「部長。要さんは先輩ですよ。「あいつ」呼ばわりはやめてください。」
 タマも他の多くの女子生徒と同じく、要信者なのか。
「すまん、つい、な。」
 特段睨みつける意図はなかったのかもしれないが、するどい視線を向けられ、俺も素直にうなずく。
 そのまま三人で歩き続け、やがて渡り廊下を通って東棟の屋上に到着した。屋上へ続く鉄製の扉を開け放つと、夏のきつい太陽の輝きに一瞬目がくらむ。まぶしさに目を細めながら屋上を見渡すと、金網に寄りかかって空を見上げている女子生徒の姿が確認できた。
「あー、要・・・さん。」
 タマの存在を気にして慣れない呼び方で名前を呼びながら近づいていくと、俺の声を聞いた要が空から視線をはずして俺を見た。相変わらず無駄に整った顔立ちだな。これでもう少しまともな性格だったら俺も惚れていたかもしれない。いや、かもなどという仮定はしたくもない。
「お、来てくれたのね、卓巳くん。」
 気安く名前を呼んで欲しくはないが、そこは突っ込まずにおく。今はさっさと聞かねばならないことだけ聞きだしこの場を退散したい。
「スクープと聞いて黙って座っていられるほど怠惰な部長ではないからな。」
「その情熱は大切にしてくれたまえよ。」
 要は予想どおり、この暑さなどどこ吹く風といった風情で涼やかな目元を緩ませ、芝居がかった口調でそう言うと、金網から一歩離れてぺたりと座り込んだ。
「ま、みんな座りなよ。立っていると疲れちゃうよ?」
 今までずっと突っ立っていたやつが言うセリフじゃないと思うが、ここも突っ込みは控えておくとしよう。こいつのペースに乗せられると話しが終わらない。俺が黙って要の前に座ると、タマと健太も同様に屋上の焼けた地面に座り込んだ。
「健太から概要は聞いたが、一体全体どういうことだ。」
 さっそく俺が話しを切り出すと、要はじっと俺の目を見つめたかと思うと、ふっと視線を宙にさ迷わせてからもったいぶった口調で話しだした。
「んー、そうだねえ。今の流れから考えると、来月早々の全体集会で現生徒会の解散、並びに次期生徒会役員選出のための選挙公示があるはずだよ。」
「さらりと言ってくれるが、こんな時期に生徒会の解散なんてどういうこった?」
 俺の困惑顔がそんなにうれしいのか、要は唇の端っこだけで笑うと今度はじっと俺の顔を見つめながら答えた。
「ま、もちろん解散するからにはそれなりの理由はあるわけだけどね。」
「そりゃ当然だろう。お前はそれについて何か知っているのか?何か詳しい事情をさ。」
 もちろん要のことだ。知っているに決まっている。だが、こいつが素直にそれを話すわけがないこともわかっている。
「さてね。」
 そんな無邪気そうな笑顔を向けても無駄だぞ。お前が無邪気だと信じることは、明日ハルマゲドンが起きて恐怖の大王が俺の前に立ち塞がるに違いないと信じることくらい難しい。
「現生徒会会長は前回の選挙で苦戦はしたが、公正な選挙で選ばれたことには間違いないし、その後の手腕は生徒の大半が認めるところだろう。俺が知る限り今の生徒会に対する支持率はそれなりに高いはずだ。」
 要相手にまともに質問するだけ無駄なので、俺は少し回りくどい言い方でもって攻めることにした。
「今回は生徒会自らが解散を決定したことだからね。支持率は関係ないのさ。」
「生徒会内部の揉め事か?」
 俺が現生徒会役員の面々を思い浮かべようと記憶の引き出しを探っていると、
「現生徒会会長、高宮早苗。現生徒会副会長、寺島修司。この二人は前回の生徒会役員選出選挙において、わずかに二票差だったわね。二票差で高宮さんが会長の座に着き、会長戦に落選した寺島くんは、本来は役職に着くことはなかったはずだけど、僅差での落選ということから、特別枠として副会長の役職に着き、したがって、現在の生徒会においては、本来の副会長戦で当選したもう一人の副会長、蓬莱みことさんと寺島くんとで、副会長が二人体制になっているわ。」
 タマがすらすらと解説をしてくれた。
「そうだったな。まあ、二票差なんて僅差だと、寺島を副会長に置いたほうが、生徒会全体の支持率も上がるってもんだ。だが、それだからこそ現生徒会は磐石だと思うんだがな。」
 今さらわかりきったことではあったが、それはそのまま要への質問となっている。
「ま、その辺は卓巳くん達の取材活動次第でわかるでしょ。」
 だが、要はこちらの意図に気付きながらもあくまで詳細を話そうとしない。
「おいおい。ここまで呼び出しておいて話しはそれだけか?」
 そんなことを言えば要の思う壺だとは思ったが、それでも言わずにはいられなかった。この暑い日差しの下に呼び出しておいてそれっぽっちの情報しか出さないとは許せん。こいつは暑さを感じない特異体質みたいだからいいんだろうが、俺は至極まともな体質なんだよ。
「そうだね。卓巳くんの顔が見られたことだし、おまけをつけてあげるよ。」
 そう言うと要はつっと膝を立て、顔を俺のほうに近づけてきた。
「お、おい、ちょっと待て。」
 別にこいつが近づいてきたからといって動揺することはないな。
「この件には『連合』が絡んでる。現生徒会の解散によって得をする人物がこの学園のどっかにいるのさ。」
 近づきすぎた要の整った顔立ちからなるべく目をそらすべく努力をしていた俺だが、その言葉を聞いて思わず要の目を真正面から覗きこんでしまった。
「『連合』?ますますわけがわからん。」
 要は何も言わずにさらに俺の顔に自分の顔を近づけてきた。おい、それ以上近づくと望まない事故が起きそうだぞ。
「こほん。要先輩、近づきすぎです。」
 硬直した俺の襟をつかんで後ろへ引っぱりながら、タマが遠慮がちに、しかしやけにはっきりとした口調で要の行動をいさめた。
「ふふ。」
 いたずらっぽい笑みを浮かべ姿勢を元に戻しながら、要がちらりとタマに向かって意味ありげな視線を投げかけたが、その意味は俺にはわからない。わかりたくもないと言ったほうが正確か。
「今話せるのはこれくらいかな。」
 要はそう言うとすっと立ち上がり金網のほうへ近づき、俺達がやってきた時と同じように空を見上げた。
「よし。とりあえず聞きこみだな。要の話しを裏付ける情報を仕入れるぞ。」
 これ以上話しは聞けないと判断し、隣に座るタマ、それからその後ろに控えていた健太に次なる行動を指示しようとしたとき、
「卓巳くん。今回のことはなかなか複雑な事件だよ。十分気をつけてね。」
 要が空を見上げながらそうつぶやいた。

 事件。
 
 生徒会の解散。これが「事件」だと言うのか?
 しかし、それ以上問いただしても要は何も言うまいと見て取り、あらためてタマと健太をうながして屋上を失礼することにした。
 事件と聞いてはますます腕がなるっていうもんだが、いまいち事件などという感じはしないな。

 このときはまだそんな風に思っていた。
 もっともこの時点で事件だと気付いていたからといって、その後に起きた騒動を止められたとはとうてい思えない。要のもたらした「スクープ」で騒動にならなかったケースなど一度もなかったことをよく考えるべきだったよな、ほんとにさ。


 屋上を後にした俺達は、とりあえずいったん部室に戻ることにした。というのも、もう一人の部員を確保するためだ。確保したからといって役に立つかどうかは微妙なところだが、手分けして取材をするためには必要な人員だろう。
 部室に戻るとそいつはのんきな顔で自分の机に座っていた。
「あ、部長、おかえりなさい。」
 顔だけじゃなく声までのんきそうなそいつは、白石照正。清涼院学園新聞部のもう一人の部員だ。
 新聞部は部長である俺、遠藤卓巳と、副部長の箱崎珠江。カメラマンその他コンピュータ関係を任せている照正、それから使い走りの健太の四人がメンバーだ。いや、実はもう一人部員がいるのだが、別にあいつは数に入れなくていい気がする。
 ちなみに俺とタマ、照正の三人は今年二年生。健太は一年だ。俺が去年入部したときには三年の先輩が三人いたが、二年生がいなかったため、三年の先輩達が引退するとともに俺が部長の座につくことになった。俺と同じく一年で入部していたタマがそのまま副部長になり、機械音痴のタマと、苦手ではないが得意とも言えない俺のサポート役として同じクラスの帰宅部だった照正を部に招いた。タマはこのご時勢記事を手書きで書いているが、それも致命的な電子機器との相性の悪さ所以だ。俺は少なくともワープロソフトくらいは使いこなせる。
「特集の取材とやらは済んだのか、照正。」
 部長席に座りながら照正に問うが、案の定と言うべきか、照正はのんき顔からのんきな答えを返してきた。
「えーっと、だいたい終わりましたよ、うん。」
 だいたいってなんだ、だいたいって。
「締め切りには必ず間に合わせろよ。記事を落としたらお前に夏休みは一生来ないと思え。」
「でも、もしかしたら特集は差し替えかもね。」
 俺の剣呑な言葉を遮ってタマが先ほどもたらされたスクープ情報を匂わせた。
「まあな。あれが事実なら差し替えは確実だ。少なくとも穴場遊びスポットよりはよほど重要なニュースだからな。」
「何のこと?」
 相変わらずのんきな顔つきの照正を無視して俺はさっそく取材の準備をしながら指示を出すことにした。
「俺と健太は生徒会へ行く。タマと照正は連合の取材に行ってくれ。」
「でも、連合と言ってもまずは誰にあたればいいのかしら。」
 タマの疑問ももっともだ。連合とは正式には「清涼院学園部活動連合会」という。そのままの名称だが、体育会系、文化系双方の部活動の連合組織で、いくつかの部活動の代表が「理事」として参画、運営している。
やることと言えば各部の意見調整だったり、どこかの部活動で問題が起きれば、その事件に対して査問委員会を開いたりする、部活動の相互扶助、自浄作用を目的とした組織だ。学園発足時から存在する組織らしい。もちろん我が新聞部も加盟はしているが、あいにくと理事を排出したことはなく、たまに回ってくる理事会の開催通知を受けて取材に行くくらいだ。
「今の主だった理事は誰だ?」
「議長は女子空手部の佐々木霧子。タカ派のトップと言われているのが男子剣道部の実剣大地。一方でハト派のトップが文芸部の高柳幸助。それぞれ体育会系、文化系の実質の代表でもあるわね。」
「そうだった。議長は佐々木だったな。「公安委員会」の委員長じゃないか。」
 公安委員会は生徒会会長直轄の組織で、どの部活、委員会からも独立独歩の組織だ。そういえば今の佐々木率いる公安委員会は、特に生徒全体から恐れられている。その割にはやけに支持率も高いらしい。佐々木の人物像を考えるとうなずける。
「まず当たるべきは議長の佐々木だな。まだこの時間は部活動に出ているだろうが、なんとか取材を試みてくれ。」
 俺の指示にタマがしっかりとうなずき、のんきにお茶をすすっていた照正をともなって部室を出て行った。佐々木相手では情報を引き出すのは至難の技かとも思えたが、なに、タマに任せておけばそれなりの成果は持ち帰るに違いない。むしろこっちのほうが不安なくらいだ。
「俺達も行くぞ。」
 『新聞部』と書かれた腕章を腕につけながら健太に声をかける。
「はい!」
 やる気だけは部員一の健太も、腕に腕章をつけて部室を飛び出した。
 俺を置いていくな。

 生徒会執務室は中央棟最上階にある。
 中央棟は、一階には職員室、生徒指導室、進路相談室など、主に教職員が利用する部屋が配置されており、二階には各種実習室及び準備室が、三階は第二講堂が占めている。そして四階、つまり最上階に俺達が今向かっている生徒会執務室がある。四階には他に中央放送室や第一会議室、公安委員会の詰め所などが配置されている。
 目指す生徒会執務室に到着すると、扉の前に一人の女子生徒が立っていた。恐らく公安委員会のメンバーだな。ということは来客中なのかもしれない。とにかく忠実な番犬よろしく扉の前で周囲に変なオーラを巻き散らしている女子生徒に近づき来意を告げる。
「新聞部部長の遠藤だ。会長はいるか?取材を申し込みたい。」
 女子生徒はピンと背中を伸ばすと、俺をじろじろと無遠慮に眺めまわし、警戒心をたっぷり含んだ口調で返答した。
「会長は今来客中です。アポイントメントは?」
「んなものは取ってない。来客中なら客が帰るまで待つとしよう。その後で構わないから会長に取り次いでくれ。」
 新聞部は先達の努力の結果、その取材活動においてはなかなかの権力を持つ。はずだが。
「会長は本日多忙です。取り次ぎはしかねます。」
 女子生徒はそっけなくそう言うと、元の忠実なる番犬に戻ってしまった。視線はこちらに向けたまま。
「おいおい。十分ほどでいいんだ。取り次ぐだけ取り次いでみてくれ。来月の全体集会について聞きたいことがあるとな。」
 その俺の言葉を聞いた途端、女子生徒の顔に一瞬驚きの表情が浮かんだのを見逃しはしなかった。要の情報は、もし真実ならばかなりの隠匿性を持つものだろうが、会長直轄の公安委員会、それも執務室の番犬を任せられるくらいのこの女子生徒は、やはり何か知っているらしい。
「無理です。」
 取り付く島もないとはこのことか。女子生徒は表情を戻し、視線にさらに力をこめて俺を睨みつけてきた。すんなりと会長から話しを聞けるとは思っていなかったが、それ以前に会長に会うことすら叶わないとは若干予想外だったな。俺が多少なりとも事情を知っている様子のこの女子生徒から情報を聞きだすか思案していると、不意に俺の背後から変なテンションの声がかけられた。
「ようよう!卓巳じゃないか。君が生徒会に何用だい?何か変なこと企んでるんじゃないだろうね?いたずらはダメだよ、うんうん。」
 振り向くと、そこには声の主、佐々木霧子が立っていた。いつの間に背後に近づいたんだこいつは。
 私立清涼院学園二年佐々木霧子。くっきりとした目鼻立ちに肩甲骨まで伸びたストレートな黒髪。女子空手部主将にして公安委員会委員長。ついでに連合理事の議長か。肩書きの多いやつだ。だいたい連合は生徒会の独断専行を牽制する一面を多分に含んでいるはずなのに、生徒会側の組織である公安委員会の委員長を兼任しているなど、今までは考えられないことだ。ひとえにこいつの実力とカリスマ性がなしえた結果なんだろうか。
「キリコか。」
 ちなみにこいつは俺の幼馴染だったりする。
「今日は会長に取材の申し込みにきた。今は来客中とのことだが、少しでいいんだ。時間を取ってくれないか。」
「ふーん。会長さんに取材ね。」
 口元に小さな笑みを浮かべたまま、ちょっと考える仕草をしたキリコは、一瞬扉の前の番犬然とした女子生徒に視線を向けた。
「今日は会長さんは多忙なんだよね。夏休み直前の特別講義期間が迫ってるからさ。」
 私立清涼院学園は全国でもトップクラスの進学校だ。夏休み前には特別講義期間という名の泊まりこみでの勉強会が催される。毎年恒例の行事だが、そのことだけでわざわざ公安委員会の委員長が出張る必要はないだろう。扉の前の女子生徒の異常な警戒ぶりといい、要の情報は確かなようだな。
「ところでお前は今日部活じゃないのか?」
そう考えてタマ達をそっちにやっちまった。
「うん?部活のほうは活動しているけど、あたしは今日は委員会の仕事優先さ。」
「特別講義期間の打ち合わせにしては警戒が厳重じゃないか。全体集会の件で揉めてたりするんじゃないのか?」
 俺のかま掛けにもキリコは表情ひとつ変えない。
「全体集会?何かあるのかい?」
 とにかくこいつが相手では分が悪い。いったん引き返すかと思い至ったとき、生徒会執務室の扉が開かれた。
 出てきたのは生徒会副会長寺島修司だった。
「お疲れさまです。」
 扉を守護していた女子生徒が寺島に挨拶をするが、当の副会長はそちらへは一瞥もせず、俺と健太、その前に立っているキリコへと順番に視線を巡らせると、一言も発しないまま階段のほうへ歩き去っていった。
「相変わらず無愛想な副会長さんだねえ。」
 何が面白いのか、キリコがにやにやしながら立ち去る副会長をそう評した。
 身内である副会長を「来客」としたのには違和感を感じたが、何はともあれ話し合いは終わったようだ。会長に取材をするなら今だろう。
「キリコ、とにかく」
「新聞部の方ですか。」
 俺がキリコに再度会長に取り次ぐよう話しかけようとしたとき、その言葉を遮って後ろから新たな声が聞こえた。
 振り向けば、副会長に続いて当の会長が姿を表していた。
「生徒会に何かご用でしょうか。」
 俺達の腕に巻かれた新聞部という腕章を見やりながら会長がそう言った。
「あ、会長。実は会長に取材をお願いしたいのですが。ほんの数分で済みますのでお時間をいただけませんか。」
 すぐさま取材モードに切り替えて会長にそう申し出る。会長はちょっと意外そうな表情を浮かべたが、それも一瞬の出来事だった。
「わかりました。では部屋へお入りください。」
 あっけなく許可されたのはいいことだが、
「会長!」
番犬が会長をとがめるように声を高め、一歩俺達に近づいてきた。
「かまいません、寺仲さん。取材中は誰にも部屋に入れさせないようにお願いします。」
 だが、会長のその一言で寺仲と呼ばれた番犬であるところの女子生徒は口を閉ざした。俺達に殺気のこもった視線を投げかけながら。
「それから佐々木さん。あなたも同席してください。」
 会長はそう言うと、部屋に戻ってしまった。
「さて、そういうわけであたしも同席させてもらうよ、卓巳。」
 公安委員長を同席させる意味がわらかない俺でもなかったが、今はとにかく情報が欲しい。空手部に取材に行ったタマ達のことが気にはかかったが、タマのことだ、心配はいらないだろう。
「よし、行くぞ、健太。」
 あえてキリコのほうは見ずに、健太をうながして生徒会執務室に足を踏み入れた。

 このあと俺は、激戦の選挙をくぐり抜けた会長が只者ではないことを嫌というほど痛感させられることになる。
 どうしてこの学園にはこう曲者ばかりが揃っているんだ。まったく。
 もっとも真の意味での「曲者」はまだこの時点では登場していなかったんだがな。
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